最終話「化猫 大詰め」

 化猫の「真」は坂井伊行であった。化猫を成した彼の口から珠生と言う女の話が語られる。果たして、「形」と「真」と「理」を得て退魔の剣を抜く薬売りだったが、剣は抜けず……。




「化猫」、いよいよ大詰めに。シリーズ最終話で描かれたのは、囚われて死んだ、哀しい一人の女性・珠生の物語。
 以下感想。



 伊行から語られた化猫の「理」。
 二十五年前、輿入れ中の珠生という女性を連れ去った若き日の伊行。しかし珠生は抵抗するどころか、むしろ彼にもたれかかるようにして逃げる事も無かった。
 伊行は珠生を不憫に思い、せめて綺麗な振袖、豪華な食事、そして仔猫を与え、何不自由のない生活を送らせてやっていた。だがある日、珠生は謎の死を遂げる。その恨みが猫に乗り移り、化猫となった。花嫁である真央を殺したのは、家から花嫁が出て行くのが許せなかったから……。
 誰もが納得するような物語は見えた。しかし化猫の脅威は消えず、何かが足りないと言う事しか分からない。水江に首を絞められる加世。伊行に無理矢理盾にされ、もはや小田島は薬売りに泣きつくしかない。
 しかし彼の実直さに打たれたのか、薬売りが立ち上がり退魔の剣を抜く。

小田島様の頼みとあっちゃ……仕方ない

 しかし退魔の剣は抜けず、化猫は家人を惨殺していく。
 それもそのはず、伊行が語った物語など嘘八百もいい所。「人と物の怪の理屈は違う」とは薬売りの言なれど、真実は物の怪の側にあった。
 化猫が薬売り、加世、小田島に「真」と「理」を見せる。
 



 珠生が抵抗しなかったなど、嘘もいいところ。
「返して」と抵抗する珠生を、伊行は暴行し陵辱し、隠し部屋の牢の中に監禁していた。その内、伊行自身が彼女を持て余し始め、伊國までも彼女を悪戯半分に陵辱する有様。
 彼女の唯一の心の支えは、隠し部屋を住処にしていたが、斬り殺された猫が産んだ仔猫。彼女は自身を蔑む水江が運んできた粗末な食事を与えながら、仔猫を慈しんで育てていた。一人でも生きていける自由と強さを託して。
 だが珠生は伊行に殺され、その死体は笹岡が井戸に落として捨ててしまった。逃げた仔猫は化け猫となり、坂井家の人間を次々と惨殺して言った。それが化猫の「真」と「理」。
 化猫が見せた「真」と「理」を見た三人。加世は涙し、小田島は目をそらす。しかし薬売りだけはしっかりとそれを見届ける。受け取った「真」と「理」を得て、退魔の剣を抜く薬売り。
 その姿は変貌し、ハイパー薬売り(仮称です)と変化を遂げる。縦横無尽なアクションで退魔の剣を振るい、化猫を斬る薬売り。それは化猫憎さにやっているのではなく、むしろそんな怨み辛みに執着し、縛られる事から解き放ってやりたかった……、そういう想いが垣間見えます。
 後に残ったのは、一匹の仔猫の死体だけ……。

 
  

 珠生を陵辱し尽くした伊行は、しかし自分が偽りを語ったと認めようとはしなかった。家のために他人に話す物語は、確かに偽りが正解であるのは事実。彼が縛られ、囚われていたもの、それは坂井家そのものだった。
 珠生が落ちた井戸に仔猫を埋葬し、それぞれのこれからを決める加世、小田島の二人に、薬売りは言う。

誰も、誰かを縛ったり命じたりできない

 そして坂井家から出た薬売りの目の前で、坂井家から出てくる花嫁衣裳の珠生と仔猫……。薬売りが解き放ったのは、猫だけではなく、珠生すら救えていた。




 大詰めだけあって、圧倒的な映像とストーリーで魅せてもらいました。
 描かれたのは珠生の一生。語られたのは醜い人の二面性。目の前に化猫が迫り今にも殺されるという場面で、まさかあんな作り事をほざくとは、その脚本に見事にやられました。
 そしてあまりにも哀しい珠生と、仔猫の美しいラストにも。縛り付けられていた坂井家そのものから解放され、新しい門出を愛する猫と共に歩みだすその姿。
 薬売りが退魔の剣を抜き放つ時のセリフが「解き放つ」であった意味がまさにそこにあるようです。すなわち、人の因果から物の怪を解き放つ……それが斬る、と言う事なのでしょう。「形」「真」「理」の三つを知らなければ斬れないのも、性格に物の怪と因果とを正確に理解する必要があったから。
 EDクレジットで表示される原画の数が異様に多い事からも、この作品にいかに力がこもっていたかが分かります。次回作である『モノノ怪』から観始めて、薬売り目当てに観始めて『怪 〜ayakashi〜』でしたが、古典ホラーを解体し、アニメーションに再構築するスタッフさんの技量には頭が下がるばかり。
「化猫」シリーズは、ある意味その集大成的存在と言えるでしょう。
 とりあえず『怪 〜ayakashi〜』はこれにて終了。次回からはいよいよ『モノノ怪』感想スタート!