最終話「化猫 大詰め」

 列車内に残っているのは薬売りと森谷の二人だけになった。しかし森谷は頑なに真実を話そうとはしない。そこに現れた化猫。化猫が場に残った記憶を薬売りの目の前に再生していく。
 それはこの事件の「理」そのもの――市原節子の視点から語られる事件の顛末であった。




 いよいよ最終話を迎える『モノノ怪』。理由は違えど語られるのは、前作『怪〜ayakashi〜』同様、一人の女性の感情と結びついて生れたモノノ怪・化猫の物語。
 以下感想。



 橋の上から線路の上へ飛び降り自殺し、そのまま列車に轢かれて死んでしまった職業婦人・市原節子。彼女は女性ながら、新聞記者として毎日奮闘していた。
 ある日、地下鉄建設に絡んだ市長の贈収賄汚職の特ダネを掴んだ彼女。デスクであった森谷からは「もっと裏づけを」、と記事にしてくれない。彼女は森谷がスクープを横取りしようとしていると思い、一人で裏づけを続け、ついに市長の汚職の証拠を手に入れる。
 そしてついに、新聞記事を森谷から任せる事になる節子。そこで彼女は泣き出してしまう。
 女だと馬鹿にされ続け、いけすかない女だと思われようと頑張っていた彼女がついに認められる時が来た。旅館にカンヅメになって、記事を書き上げる節子。
 しかし記事は森谷に読まれもせずに燃やされてしまう。森谷は実は市長とつながっていて、初めからそんな記事は世に出す気は無かった。散々嘲笑う森谷だったが、「他に証拠を持ち込む」と言われ森谷は逆上。もみ合いの末、橋の上から節子を突き落としてしまう。
 線路の上で体は動かないまでも、意識だけはあった節子。そこにやってくる電車。運転手は気がつかない。そこに居合わせ、血を舐めた猫と一緒に轢かれた節子の「許せない、許さない」と言う彼女の因果によりモノノ怪へと変化する。
 それが、このモノノ怪の「理」だった。




 これだけ言うと心底節子が可哀想に思えるが、実はそうではなく。
 彼女は苦労し、ついに新聞記者としての華々しい一歩を踏み出そうとしていた。そこで彼女は、自分以外の女性を小馬鹿にして鼻で笑う

 旅館の女中にチップを渡しながら、そんな小金に執着する女中(同じ職業婦人)を嗤う。「自分は新聞記者様だ」、と。
 だからこそ、森谷に記事を燃やされ、世に出されなかった事が、自分の努力を無にされた事に怒り狂った原因となった。自分は他の女性とは違う偉い新聞記者様だと思っていたのに、小馬鹿にしていた他の女性と同じと言われたようだったから。
 猫をモノノ怪としたものはそんな「悔しさ」。
 だからこそ化猫となった後、自分の死に関わった七人を列車に集め「真」を知りたがった。
 序の幕から写真のシャッターを切るような演出があったのも、彼女が新聞記者と言う強い執着があったから。
 彼女が死と前後して、七人ももちろん関わっていた。すべての原因となった市長と森谷。居眠り運転で節子と猫に気がつかなかった運転手。自殺と決めてつけて捜査した刑事。争いあう声を聞いたのに証言しなかったハル。偽りの証言をしたチヨ。節子を突き飛ばした森谷を目撃したのに証言しなかった小林少年……。




 すべてを知って、ついに牙を向く節子の姿をしたモノノ怪。「形」と「真」と「理」を得て、ついに退魔の剣を抜き放つ薬売り。ハイパー薬売りにチェンジして、化猫を斬り祓う。
 と、突然現実にシフト。列車の中で目覚めたのは森谷。「白昼夢か……」なんて格好つけていたら、現れる節子の姿の化猫。永遠に進まない秒針。民衆はマネキンに変わる。殺された市長と同じ運命を辿るであろう森谷。
 ここでようやく、マネキン=過去と言う事が分かった。実ははじめから、過去と現在の狭間をぐるぐる列車に乗って回っていた……のかも知れない。




 そして、EDで後日談。
 殺されたのは市長と森谷だけで、他の五人は殺されなかった。節子の目的は新聞記者として「真実」を明らかにする事。だから逆に、刑事や運転手、そして他の目撃者には生きていて欲しかったのかも知れません。再捜査も始まり、市長の汚職も明らかになった。
 橋に手向けられるチヨら目撃者からの花。それぞれ節子の悲しみに触れて少しだけ変化し、特にハルは浮気相手の合鍵をポストに返す……とそれが分かりやすい。
 余談ながら、この時の浮気相手は「坂井」。前作「化猫」で登場し、中心となった家名でニヤリ。
 そうして、始まるのは優しく猫を撫でる薬売りの口上で幕。この時の薬売りの表情がそれはもう優しくて美人さんで……。その横顔には思わずキュン! あぁ、もう結婚してえ(黙れ)!
 そうやって撫でる猫の他にも、山のような猫達が。彼らは電車に轢かれ、それによって生れたアヤカシか。逆に言えば、彼らと人の数と彼らアヤカシの数だけ、モノノ怪は生れ続ける。薬売りの仕事は何も終わらない。




 放送終了してから時間が経っている作品ですが、一見の価値ある作品です。「ひとのよのあわれ」を描き、その悲哀絶望喚起そろって味あわせてくれる、こんな作品はここ数年の中でも稀有。
 最後に、薬売りの口上で幕。 

 生まれるものと在るものが、真と理を伴えば形を得る。
 形を得て、あってはならぬモノノ怪が生まれる。
 モノノ怪を絶やす事はできぬ。されど、モノノ怪を斬り、祓う事はできる。故に剣があり、剣をつかむ手がある。
 さて皆様、あなた様の真と理、お聞かせ願いたく候。
 モノノ怪が人の世に、ある限り。

 絶対DVD買うよもぅ! ありがとうございました。