第6話「のっぺらぼう 前編」

 自らの夫、姑をはじめとする佐々木家一家惨殺の咎で市中引き回しの末、磔獄門を申し付けられ、牢の中につながれている女・お蝶。彼女の前に薬売りが現れる。彼は佐々木家一家惨殺の裏にモノノ怪が関わっていると当たりをつけ、お蝶を追求し始める。
 しかしそこに能面を被ったモノノ怪が現れ、薬売りの意識を奪い、お蝶を牢から連れ出そうとする。



 前作『怪〜ayakashi〜』の「天守物語」で主役だった桑島法子さんと緑川光氏を迎えて繰り広げられる今回のエピソード。本当の自分とは何か? 囚われているのは何か? と言った、重くも難解なものがテーマとなっていそうです。
 しかし薬売りのように、

「面と書いて『おもて』とも読む」
「所詮人の顔など、面(おもて)に現れている形にすぎぬ。私がこの面を『おもて』と認めれば、いともたやすく私の顔となるのです」

 こんな風に生きていける奴は、そういないのですけれど。
 以下感想。



 今回のエピソードは、お蝶が佐々木家一家惨殺の評定を受け、一件落着になったところからスタートする。初めは薬売りが退魔の剣を抜くための「形」と「真」と「理」を彼女から得るため、益体も無い話から事件の本質へと切り込んでいく。
 それは『化猫』騒動の時のように、くつかの疑問をとっかかりにして始まる。

  • 佐々木家一家全員を殺す事は女一人には不可能。
  • なおかつ、佐々木家一家の殺し方が惨殺した上で梅の木に吊るす、土の中に埋めるなど、バラバラで、お蝶自身も覚えていない。
  • 何より、人を殺した、これから殺される人間が纏うべき「顔」をしていない。

 しかしそこに現れた狐面のモノノ怪が現れ、薬売りは意識を奪われ、お蝶は連れ去られてしまう。モノノ怪の「形」が自ら現れたと思ったが、それは本当の「形」ではなかった。




 お蝶を牢獄から救い出すために生まれたという狐面。佐々木家でただの飯炊きのように扱われていた彼女は心に澱のように毒を溜めていた。それを吐き出してもらうために、お蝶に包丁を渡し、殺害を唆したのがこのモノノ怪
 彼女を罪人として狙う追っ手から逃がそうとする狐面。しかしお蝶は「あそこ」に戻るくらいなら、死んだほうが楽とまで言う。
 そんなお蝶に、狐面、何を血迷ったか突然求婚! 男の決意に暗い顔だったお蝶も頷き、まさかのスピード祝言! その背後で、狐面が「やった! やった!」などと言いながら踊り回っている姿が素敵(笑)。緑川光のイケメンボイスでこんな事言い出すのは反則だ。
 始まる祝言。よろこぶアヤカシ達。新しい人生の門出。しかしそこにお蝶の母が現れた事で祝言は壊れ、皮肉げな薬売りの言葉で芝居は終わる。
 狐面の男を下し、狐面の下の真実をあぶりだす。




 お蝶さん、狐面の二人もさる事ながら、普段以上にSっぷりととぼけた会話を披露していた今回の薬売り。

「そもそも薬に頼る心根が気に入らない」 
「効かぬのは貴様の深甚が足りぬからだ。メザシの頭の例えもあるじゃないか」

 などと言いたい放題。イワシです、薬売りさん。
「本当の顔」=自分を持たないお蝶に、そして狐面に相対する薬売り。彼の前述の言葉通りに彼が生きているのなら、彼にとってどんな顔になっても全部本当の自分であると言う事か。
 決して「形」を表そうとはしない手強い相手を前に、薬売りはどのように「形」「真」「理」を導いていくのか――。