第11話「化猫 二の幕」
閉ざされた列車の中で、自殺した市原節子について乗客達が語り始める。しかし、話すにつれ皆、体のあちこちをかきむしっては姿を消していく。そして、ついには薬売りだけを残して誰もいなくなってしまうが……。
薬売りはモノノ怪・化猫が「真を知りたがるモノノ怪」と看破。すなわち、そのために七人を列車に隔離したのだ、と。
異形の空間。猫の瞳が漆黒の虚空から車内を覗き込んでいる悪夢のような状況で、しかし冷静に残った六人の証言を組み合わせていく薬売りの冷静さ、また水の向け方がニクイ。その事件追及の姿は名探偵もかくや。
自殺したと思われていた市原節子の自殺は作られた自殺だった――それが、化猫の「真」。
以下感想。
しかし現実は、刑事の決め付け操作、六人のいい加減な証言のせいで殺人は自殺へと摩り替えられ、真実は永遠に闇の中に封じ込められてしまった。
そんな事は「許さない」。真実が明かされない事、虚言を吐いた人間は「許さない」。彼女の怨念が、モノノ怪となり、次々と証言者に耐えがたい痛みを与えて消し去っていく。
その消滅の理由はそれぞれこうなる。
- 小林少年
配達途中、市原節子の落ちた橋の近くを通りかかっていた。そこで彼女を橋の下に落とした犯人らしき男を「見た」のに証言しなかった。
→目をかきむしって消えてしまう。
- チヨ
女優になりたい、有名になりたい、証言すれば新聞に載ってきっかけができるかも知れない、と言う安易な理由で適当に話を合わせて市原節子が「死んじゃおうかな」と言っていたと証言を捏造した。
→「唇」をかきむしって消える。
- ハル
姑と四六時中一緒にいる生活に耐え切れず、他の男と情事を交わしていた彼女は、その最中、市原節子が男と言い争いをする声を「聞いて」いた。しかし姑がいる前で刑事にそんな事を言うワケにもいかず、証言はしなかった。
→耳をかきむしって消える。
- 木下
橋に落ちた市原節子を猫ごと列車で轢き殺した男。しかしダイヤの乱れを言い訳にして、無視して列車を走らせた。
→ブレーキペダルを踏まなかった「足」をかきむしって消える。
- 森谷
市原節子を買っていた。市長の収賄疑惑に挑んだ彼女の敵討ちのために今回市長にインタビューをしていたと言いながら、「女」を徹底的に侮蔑する態度を取り続ける。
→理由は未だ不明のまま全身をかきむしって消滅。
と、誰も彼も偽りの証言をして市原節子の自殺を作った要因である事がそれぞれ明らかになる。
この時の、互いを罵りあう声、言い争う声の醜い事醜い事。程度の差はあれど、誰もが自分の事しか考えず、市原節子の死に関心を持とうともせず、安易な気持ちや保身のために証言してしまった。
脱出しようとして喚き散らしていた刑事・門脇も化猫に消され、もはや列車の中には誰も残っていない。
……と思いや、退魔の剣を構える薬売りの前に、消えたはずの新聞記者・森谷が現れる!
序の幕で「形」が。二の幕で「真」が語られた『モノノ怪』最終シリーズ「化猫」。乗客の内、明確に消える理由が描かれていなかったのはこの森谷だけ。
次回の最終話で、いよいよ薬売りとも因縁深い「化猫」もついに大詰め!