アン・マキャフリイ『パーンの竜騎士/外伝(3) ネリルカ物語』

 以下感想。
『パーンの竜騎士』外伝シリーズの「竜の貴婦人」のサイドストーリーとなる一冊。
「竜の貴婦人」において脇役ながら意味深に描かれ、また最後にはヒロインモレタを想っていた男。アレッサンといつの間にか結婚していた女性、ネリルカが主役の物語。
 今回の糸降りが終了した休息期に、ネリルカ自身が過去を振り返る、と言う形式で描かれているのが特徴的。
 このネリルカだが、「竜の貴婦人」主人公/ヒロインであるモレタとは違い、ごくごく標準的なマキャフリー作品の主役といった感じである。
 自分の能力を活かせず、鬱々とした毎日を送っていた所にやって来た人生の転機。そこを逃さずものにして、自分の能力を活かせる場所で幸せをつかみ取っていく。まさにマキャフリー作品の王道である。
 しかしこのネリルカの場合は、同性の友人への友情が厚かったり、アレッサンとの結婚もそこはかとなく後ろ暗いところがあったりと、その辺りのバリエーションの違いがまた面白くもあり興味深くもあり。
 疫病によって死に見舞われた惑星パーン。特にその象徴となるのが、アレッサンの治める地域の荒廃振りだろう。人々は死に絶え、またアレッサンも家族を、思い人であるモレタを失い、失意のどん底に陥る。
 だがそこから、モレタの予言通り妹が女王竜と感合し、土地は復興し、ネリルカが彼の子どもを産み、ゆっくりと再生していく。疫病と言う糸降り以外の困難によって受けた甚大な被害を描いた「竜の貴婦人」〜「ネリルカ物語」に続く一連の三部作。それはまさに、死と再生を描いたと云っても過言でもないだろう。何せ最後に、ネリルカが産んだ女子に名づけられた名前はモレタなのだから。
 どれほど自身に不幸が降りかかっても、力強く幸せを勝ち取っていく、と言うマキャフリーの作品の流れが、これほどしっくりくる展開も無いだろう。
 ラストの、

 悲しみと試練のうちにはじまったこの物語は、深い不変の幸福に包まれて幕を降ろす。ほかの人々の物語も、こういうものでありますように。

 すべてのマキャフリー作品のテーマに共通するこの一文が、それをものがっていると思った。