福井晴敏『機動戦士ガンダムUC(1)〜(10)』

 映像化も始まった『機動戦士ガンダムUC』の原作小説全一〇巻を全冊購入し読破。
 設定もビジュアルも全部気合入ってて、『逆襲のシャア』以後の宇宙世紀の補完もさることながら、宇宙世紀の始まりにまで言及していく、おそるべき公式作品。
ユニコーンガンダムは伊達じゃない」
 とか黒い三連星のオマージュであるトライスターに、
「俺を踏み台にした!?」
 とか言わせてみたりする辺り、やっぱり作者ガンダム好きなんだなあとニヤニヤw
 とにかく、『Z』劇場版で否定された『ZZ』以後の宇宙世紀が描かれた、と言う事で、かなり重要な作品である事は間違いないと思われ。
 以下適当にネタバレあり感想。

バナージ・リンクス/ユニコーンガンダム

俺がガンダムだ!」
 を、究極的に体現してしまった主人公。
 サイコフレームに数々の残留思念と自らの思念を取り込んだ結果、ユニコーンガンダム依代とした一種の精神複合生命体と化す。せっちゃん、思わず歯軋り(コラ)。
逆襲のシャア』以降、サイコフレームを使った機体がろくに見当たらないなと思ったら、この事件がきっかけで技術が封印されてしまったらしい。
 精神の進化を体現したバナージだが、オードリーの元に帰る、と言うその一念で無事肉体に帰還した辺り、宇宙世紀ガンダム』の主人公としてはかなり珍しい部類に入るような気がする。
 ところで、作中でカミーユの如く、
「俺の体を使ってくれ!」
 と言うバナージの意見が却下されたのは、劇場版『Z』に対するメッセージと捕らえてよろしいのか(ヲイ)?

オードリー・バーン/ミネバ・ラオ・ザビ

 こちらも、宇宙世紀の歴史で無視されていたミネバ姫が、ヒロインとして登場。
ローマの休日』よろしく、オードリー・ヘップバーンをもじって偽名とし、バナージを運命へと巻き込んでいく。
「約束を違える事は許しません!」
 と、あくまで姫として、上から目線でバナージに甘えるところなんて、リディじゃなくても「見せつけてくれる」とニヨニヨ。

感情移入できたキャラクター達

 個人的に感情移入できたキャラクターは、しかしバナージやオードリーと言った主人公ヒロインではなかったり。
 実は、フル・フロンタル、アンジェロ、リディ、アルベルトと言った、ああいう「可能性を否定する」キャラクターに、個人的には感情移入して読めてしまった。
 人の持つ可能性。オールドタイプ、ニュータイプの別無く、人の心は響き合える、と未来を説くバナージ達。
 対して、そんなものは不要。人には金になる現実を見せておけばいい、と言うフル・フロンタル
 そのフル・フロンタルに依存し、バナージと響きあったものの、自分とバナージの人生を比較し、自分の人生をみっともない、恥ずかしいものだと理解を拒んだアンジェロ。
 生真面目に生きているが故に、自身の家の秘密から身動きが取れなくなってしまったリディ。
 父親の機体に答えられず、叔母の傀儡として、異母弟のバナージに八つ当たりをかますアルベルト。
 こういう、人の弱さや醜さを演じる事を与えられたキャラクターに過度の感情移入は危険と知りながらも、その弱さと自分自身のそれを重ね合わせて、「ああ、分かる分かる」
 と読んで言ってしまった。
 まあ、フル・フロンタルにしろ、アンジェロにしろ、リディにしろ、アルベルトにしろ、どっかヘタレなキャラクターだから、単なる自分のヘタレ萌え、と言う話もあるのけれど(笑)。
 リディなんか、大層な理由をつけても、結局は「オードリーにフラれた」からバナージと戦ってるんだもんなwwww

機動戦士ガンダムUC』最萌えキャラクター

 本作最大の萌えキャラ。それは間違いなく、ジンネマンである事に異論は無い、と言っても過言ではあるまい。
 ネオ・ジオンの残党として、妻と子を連邦に凌辱され殺された者として、果ての無い戦いに身を投じるジンネマン。
 しかしその途中で助けたプルのクローンの一人に、娘と似た名前を与え、娘として扱いたいのに、失うのが怖くて娘扱い出来ない。そのくせ気を回しすぎる父親気質でバナージを導いては裏切って、それでも裏切り切れなくて。
 最後の最後、もうここを見逃したら全部が駄目になる、と言う瀬戸際の瀬戸際で、
「父ちゃんが悪かった」
 と感情をぼろぼろ露わにする。その落差に心が打ち抜かれるッッッ。
 読んでいる時も、ジンネマンの所だけ優先的に読んでました。こんな愛すべき駄目オヤジ、もう愛するしかないじゃないか(訳が分からん)!