夢枕獏『陰陽師 瀧夜叉姫(上・下)』

陰陽師 瀧夜叉姫 上 (文春文庫)

陰陽師 瀧夜叉姫 上 (文春文庫)

陰陽師 瀧夜叉姫 下 (文春文庫)

陰陽師 瀧夜叉姫 下 (文春文庫)

感想

 都を襲う、平将門ゆかりの怪奇に、晴明と博雅がその謎を追う上下巻。この二人の活躍もそうだが、今回は芦屋道満の活躍が特に印象に残るシリーズでもあった。
 所詮暇つぶし。自分は面白そうな事を見物しているだけ。そううそぶく道満。だが、事件の渦中にあっても、むしろ関わりたくても関われないしがらみに縛れているように思う。
 その理由は、自分と他者の違い。それに苦しみながらも、そしてそれを決して明かそうとしない孤独と孤高。それらが強く感じた。
 つくづく、晴明にとっての博雅の存在が貴重でまぶしいものであると分かる。向かい合い、あるいは並びあえる。まっすぐ「人」として「自分」を「自然」に生きる。博雅のなんといい漢か。そしてそれが、どれほど晴明を救っている事か。
 闇の中に独り消えていく道満の後ろ姿に、ただただ、ため息をつくばかりだ。