吉村夜『サイレント・ラヴァーズⅣ 真実を君に』

『サイレント・ラヴァーズ』シリーズ最終巻。
 以下感想。

ストーリー

 七都市連合軍がセキレイの解放に成功し、終戦ムードが流れ始める。しかしカイオンを裏で支配する『神』――もう一体のTYPE-D『シリウス』はそれを由とせず、和平会場に核ミサイルを撃ち込もうと行動を始める。
 一方、アンタレスは、ヒバナにセツナが会いに来ると言う事実に混乱の極みにあった。

オリジナルとコピーと

 絶望、絶望、また絶望とキャラクターをこれでもかと追い込むのがこのシリーズの特徴だが、今回のは極めつけ。それは、アンタレスの内部にインストールされたセツナが、セツナのオリジナルのコピーだったと言う事。つまり、ヒバナに「会いに来る」と手紙を出したセツナが本物のセツナだった。
 そして、戦場と言う過酷な状況下で生き抜いてきたアンタレス=セツナは、もはやオリジナルとは別人である、と言う事だった。
 TYPE-Dに魂を入れられ、ヒバナへの愛だけが拠り所。そんな状況だったのによもやその想いを持つ自分自身がコピーとは。当然荒れに荒れ、またも絶望するセツナ。魂の城内部の科学者達ともコンタクトできるようになり、かつての文明の技術を復活させると言う望みを得た矢先だっただけにこれはキツイ。
 しかしその絶望を乗り越え、さらにオリジナルのセツナとアンタレス同士が、ヒバナへの想いを中心に強い絆で結ばれた姿を見せるのは驚愕ものの復活だった。
 氏が描く、どんな苦境・逆境からも立ち上がる強い精神力を持ったヒーローの姿がここにある。

もう一人のアンタレス

 ラスボスとして立ち塞がるのは、セツナ同様、TYPE-Dに魂をインストールされ、恋人までも軍に殺され、絶望のあまり全世界に向けて核ミサイルを発射して現在へ至る世界を作ったVG・シリウス
 自らを『神』と自称し、カイオン軍を裏で操り、また自らの戦闘力を使ってVGを虐殺する姿は、アンタレスとは対照的な、苦笑・逆境に弱く、そこに打ちひしがれて立ち上がれない、弱い人間そのものだった。
 それだけに、アンタレスとの戦いは印象的で胸に残る。

魂の強さ

ヒーローの条件は、肉体の強さや超能力ではなく、決して折れない心の強さ」。
 このたった一行に肉付けし、魅力的で、強烈な心の強さを見せるキャラクターを生み出してきた氏らしい心の強さを感じさせる一作だった。
 変に長く続かずに、適度な長さで終わってくれるのも好きなポイントなのだが……それは良し悪し、なのか?

次回作は?

 まだ正式決定ではないようだが、次回は猫萌えらしい?……萌えって……! どうするの心の強さ!