第6話「ラブ・レター」

 読書感想文の課題を出されたミナモ。しかしすべての書籍が電子化されているために、電脳化していないミナモには読める本が無い。紙の本を中央図書館に行って借りていたが、その本も切り抜かれてしまっていて最後まで読めず中途半端に終わってしまう。
 そこでミナモは祖母から『ラブ・レター』と言う本を薦められる。

第一感想

 完全書籍電子化!
 メタルが発達し、高度に電脳化された世界にもはや紙の本は不要、と言うのが世論か。確かに世界で一番重いものは紙だけど! やはり紙の本も捨てがたい。それでも、検索一発。読みたい本があっという間に手に入る、と言うのも本読みの夢であって……。
 どっちも棄てがたいなぁ、と思った瞬間だった。
 以下感想。

ソウタの心配

 ミナモの事で、波留の事務所に出向と言う形で非常勤として新たに加わったソウタ。ミナモの保護者として、色々金銭面やら何やらで心配してはいるが……。
 一番心配しているのは、もしかしたらミナモが波留に恋愛感情を持っている事、なのかも知れない。波留は外見八〇歳だが、中身はまだ三〇代。義体化すれば若い体を手に入れる事も可能であるはずのこの時代、年の差なんて無意味だからだ。
 もっともダイバーとしてのバディ関係から一歩進んでしまう事を意識するのは、もっと後半になってからだろうが。

『ラブ・レター』

 ありとあらゆる関係の人間が登場し、最後には自分で誰かに手紙を書いて完結させる。まさにミロのヴィーナスにも似た自分だけの、世界で一冊の本と言える。
 こんなもの出版されたら、そりゃ話題にもなるよね、と思った。だが……ほら、これはあれだ。最後に感想のための原稿用紙がついてる、カッパノベルっぽい(最低の感想だ)。

手紙でしか伝わらない思い

 紙の手触り。染みのような汚れ。そんなものまで、誰かの心と自分の心をつなぐものになりえてしまう。今回、波留が植物状態になる前に出した手紙の返事。そこの落ちた涙。インクの滲み。そこで人が何を思ったのかさえ。
 波留から見ればほんの少し眠っていただけだが、実際には五〇年もの時が流れている。その間の時間差がまったく絶望的にすら思える。まさに浦島太郎のようだ。
 時の流れを超えて、伝えられる確かな感情。それが平坦な電子書籍では伝えられない、消えいく紙とインク。ひいては手紙の力なのだろう。

次回は

 犬、が登場?