第9話「鵺 後編」

 三人の男が瑠璃姫の命よりも重要視し捜し求める「東大寺」とは正倉院に納められている香木・蘭奢待(らんじゃたい)であった。三人は「東大寺」を手に入れるため、再び聞香を始めるが、薬売りが香の中に猛毒の夾竹桃を使ってしまい……。




 明らかになった「東大寺」の正体。
 それは正倉院に納められているものとは別のもう一つの香木・蘭奢待。それぞれの漢字の中に「東」「大」「寺」が入っているところから「東大寺」と言う名称がついたとか。
 それも時の権力者である足利義正、織田信長も香木を切り取っており、天下を治める事もできる、と言った伝説まで存在する。
 正倉院に納められている貴重品、手に入れられるのならば手に入れたいと思うのが人情。彼ら三人の執着も頷る。
 以下感想。



 そして、「東大寺」の所有者を巡り、薬売りが香を用意して再び聞香を三人で行う事に。がっさがっさと玩具箱を漁るように香を準備する薬売りがもう……。それすらなんだか魅力的だね! そして散らかした道具の中にあった蛸は一体何だったんだろうwww
 香には詳しい大澤にその表情を読ませない薬売り。しかしそこで今回最萌えシーンが来たッ。

「いやぁ、手持ちの薬の中で、コレは使ってはいけないとよけておいた夾竹桃をつい混ぜてしまいました」
「この五種類のうちどれが夾竹桃だったか…わからなくなってしまいました」
うっかり、うっかり

 うっかり薬売りキターッ(笑)!
 まったく悪い事していなさそうな表情で、しかし手で頭をぽんぽん叩きながらさらりと酷い事を言ってのける薬売りにこちらがやられるwwwww




 夾竹桃の毒に怯える三人それぞれに、それぞれに相応しい香を持って薬売りは指摘していく。
 前回のアバンで無残な死に様を見せた実尊寺。彼を殺したのは東侍である室町だった。出世コースから外れ、天下人になれると言う「東大寺」の力にあやかろうとした室町を、散々馬鹿にする実尊寺。室町は彼を怒りに任せて斬り殺してしまう。それに血の染み付いた襖の匂いで気がついた室町は、実尊寺の怨念に食い殺される。 
 瑠璃姫に財産を処分してまで求婚を迫ったのは半井。だが姫は屏風に描かれた男に夢中で、初めから半井の言葉を聞いてもいない……。このシーンで挿入される重なり合った雄と雌の蛙の絵の喩えが実にいやらしくなくて凄い。逆上した半井は、そのまま瑠璃姫を殺してしまう。髪の焼ける匂いで気がついた半井も室町同様死んでしまう。
 そして最後に残った一人、大澤。彼が聞いた香が見事に毒である夾竹桃が見事に当たり、薬売りが適当に「水をたくさん飲めばいいとか何とか」と言う言葉を信じて外に駆け出し、転んで首を折って死亡。




 三人を殺してしまった薬売り。だが種明かしはここから。実は三人はすでに死んでいた。彼らは自分が死んだ事にも気付かず夜な夜な香を聞いているのが不憫だったのでおせっかいを焼いてやったのだ、と。
 前回のあのぽかんとした薬売りの表情の意味は、このおせっかいにつながっていくんでしょう。放っておいてもいいけど、ここまで浅ましいと逆に不憫……そんな風に感じ、薬売りなりの性格の悪い方法で「死」に気がつかせてやった……と。
 彼らの服や刀だけに色がつき本人がモノクロだったのは、本人はすでに死んでおり、色がついていたものは墓の前の装飾品のようなものだったから。




 見る場所によって姿が変わるモノノ怪、「形」は鵺。そして今のは、香木「東大寺」。三人の男達が背にした屏風それぞれに違う動物が描かれていたのも暗にそれを示唆していたから。
 その「真」は東大寺の噂を聞いてやってくる人々を取り込み、夜な夜な終わる事の無い組香を行わせていた事。
「理」は価値の分からない人間には腐った木でしかない「東大寺」の価値を保ち続けるため。 
 暴かれる寺の真の姿。敷地一面に並ぶ墓石、墓石、墓石。その数は十や二十ではきかないほど。
「形」「真」「理」の三つを得、退魔の剣を解き放つ薬売り。
 今回はハイパー薬売り状態での戦闘が長いっ! 退魔の剣とお札を使って斬り結ぶハイパーモード時のアクションを久しぶりに堪能。『怪 〜ayakashi〜』での「化猫」以来ではないだろうか。
 香木は、火で焚くもの――と、「東大寺」をぽんっと折り、火で焚いてしまう薬売り。
 途端、香りは荒れ寺を楽土に変え、鵺に囚われていた多くの人々を喚起の世界へと誘う。しかし、価値の分からない犬のくしゃみ一つでたちまちもとの荒れ寺に。後には何も残っていない。




 価値のある物は、価値の分からない者に取っては何の意味も無い。しかし物はあくまで物であり、物が価値を保つために人を捕らえていたのなら、結局のところ、始まりはすべて腐った木一本に浅ましく欲望をぶつける人間が元凶である。
 アヤカシと人の因縁を斬った薬売りの悲しげな表情と、元の荒れ寺に戻った後のそこはかとなく嬉しそうな表情が印象的。
 次回はいよいよ最終シリーズ。時代を超えて「化猫」の因縁、再び!