『獣拳戦隊ゲキレンジャー』修行その46「ギャワギャワの記憶」

 ジャンはマスター・シャーフーが拾った金色の鱗に巨大化した理央と同じ匂いを感じ取った。ゴリー・イェンはゲキワザ眠眠拳でジャンの記憶を辿る。一方理央も、謎の怪物に家族を殺された過去を思い出していた。
 そしてついに、すべての黒幕が姿を現した。




 断片的に語られてきたロンの陰謀がついに明らかに。
 破壊神を立て、「この世の全てを破壊する」と言う大願を成就させるため、長きに渡って策略を巡らせていたロン。
 理央の家族を殺し、彼の人生を弄び、ダンを闇討ちし、ジャンの母ナミを殺し、ジャンの村を壊滅させ、メレに知恵をつけ、狼男となったゴウを利用した。かつてはマクを唆し、臨獣殿を興させたのもこの男。
 ジャン達のように人間でもなければ、メレ達の様に死人でもない。幻獣の頂点に立つ龍として永遠の時を生きると言うロン。その陰謀の動機は、すべて退屈しのぎ。毎日の刺激のため。そのためにロンは数え切れないほどの人間を弄んで嘲笑してきた。




 作劇的にはひどく紋切り型で、自分も含め多くの人が落胆した動機。しかし『ゲキレン』のテーマから見ればこれほど最大の敵は無い。
 マスター・シャーフーら拳聖しかり、臨獣殿の拳士しかり、「不老」や「死」と言った「変化しない事」こそが敵。
 いつもアバンで、

戦う宿命の拳士達は日々、高みを目指して、学び、変わる

と言っているように、毎日を仲間達と共に切磋琢磨し、変化していく事こそが最重要であり、至上である『ゲキレン』世界。
 そこで一人永遠の時間を持て余した挙句、他人を自分の勝手で殺すだの利用するなど言っている奴は、まさしく「悪」。
 と同時に、ラスボス・ロンも同じように変わる事を目的とする一人の拳士でしかないと言う側面も。
 ロンが破壊神を立て世界を破壊したいのは、変化の無い毎日を少しでも変える為。他人にちょっかいをかけているのは、少しでもそれを効率的に成し遂げるため。
『ゲキレン』世界の戦いは、どこまで規模が大きくなっても、結局のところ少数の「獣拳」使い……と言うよりも、個人の「生き方」の違いのぶつかり合いでしかない。
 ……とか書いてみたけど本当は「ロン本人は破壊神になろうと思えばなれるけど、痛くて苦しいから他人に押し付けてる」なんて言われたらどうしよう(笑)。




 しかし今回のエピソードの肝はロンの陰謀暴露では無く、クライマックスにして描かれた理央の真の敗北でしょう。
 正義側であるゲキレンジャーよりも、強い自分を追い求めていた姿が魅力的映る事もあった理央ですが、それらがすべてロンの作り上げたものだった事が分かり、立ち上がる事もできなくなってしまう。
 家族を殺された恐怖も、強くなろうとする思いも、倒すべきライバルも、復興し頭首として立った臨獣殿さえもロンのもの(紋章が三匹の龍だったのも、今となってはあからさま)。
 自分が歩いてきた道が全部ロンの悪意を持ったお膳立てと知って、戦う気力も残っていない。それもそのはず、理央の「たがり」の部分が剥ぎ取られれば、何も無い自分が残るだけ。
 マスター・シャーフーの言うように、理央は孤独な雛鳥であり、自前の翼も持っていない。 
 そんな理央を彼を守る者は彼女しかいない! と理央に変わってロンに立ち向かうのは我らがメレ!
 理央の生き方はすべてロンが導いたものであっても、メレを選んだのは理央であり、決っしてロンでは無いと、敢然と挑むメレ。彼女のどこまでも揺らがない理央一本気の生き方は眩しいほど。
 ロンに挑むも敗北し、とどめをさされるメレを助ける理央。
助けたよ! 助けちゃったよ理央がー!
とこのシーンでTVの前で絶叫。近所の人、ご迷惑かけてごめんなさい。
 しかし理央がこんなにストレートにメレのために行動したのって初めてなのでわ! ついにメレの愛が届いた瞬間(報われた瞬間、では無い)に全世界一千万人のメレ親衛隊が泣いた。
 だがそれを見逃すロンではなく、彼女が理央を人間へと繋ぎとめている存在と見抜き、メレを捕らえ、理央に臨獣殿に来るよう言い残して去ってしまう。
 ロンがメレを亡き者とし、理央を破壊神に仕立て上げるのは確実。しかし理央はうなだれるばかりで動く事ができない。次回はそんな理央の前に、ジャンが立つ! 
 何せ今のジャンは、ダンが残したズシズシの宿命をワッシワッシと乗り越えたジャンなのです。理央とはメンタリティと言う面で圧倒的的に差がついている。
 理央が自分の意思で道を歩む事が次回の肝。




 どうも臨獣殿側ばかり書いているので、ここらいっちょ激獣拳側を。
 ヒソが幻獣拳としての誇りを持って戦っているのに対し、ゲキレンジャー側も激獣拳の誇り持って挑んだ巨大戦が印象的。合体して戦うのではなく、全ゲキビーストで戦ったゲキレンジャー
「ただのケモノ」の強さを見せてくれるわ! 的プライドが垣間見える大行進でした。
 ……む、やはり短い(苦笑)。
 



 今回の脚本ではヒソ退場、ゴリーキャラ崩壊など脚本が凄い事になっていたのも印象に残ります。
「メレお嬢様」ぐらいしかセリフが無かったヒソがメレを守るため、サンヨと戦う! 双幻士としての星の宿命に殉ずる姿に感動……とか思ったら、最初のヒソはロンが化けていた! おまけに本人はしっかりロン派。
 ロンの姿を変える能力や、ヒソの描写の薄さを利用した展開が巧い。
 さぁ、いよいよやってきましたよ、ゴリー・イェンのスーパーキャラ崩壊タイム!
 全員サービスDVD『拳聖大運動会』の時点でそういう前兆はありましたが、まさか今回こう来るとは! 突然のアメリカンジョーク(ベスとセラーってなんじゃらほい)、「藪からスティックに」ってどこのルー語!?
 BBAではゲキゴリラを「一番ハンサムなゲキゴリラ」とか自画自賛(と言えるのか?)。いいぞ! もっとやれ! とは中々言えないキャラ暴走。ゴリー・イェンがやると、違う意味で不安になるよ!   



    
 次回はいよいよ、臨獣殿にゲキレンジャーが乗り込んで決戦!