『燃えよドラゴン ディレクターズカット特別版』

ディレクターズカット 燃えよドラゴン [UMD]

ディレクターズカット 燃えよドラゴン [UMD]

獣拳戦隊ゲキレンジャー』からアクション映画に触れてみよう企画、第十四弾。
 今回は『燃えよドラゴン』!

 ハンが三年一度開催する武術トーナメントへの招待を受けた少林寺の高弟リーは国際情報局のブレイスウェストに犯罪組織の疑いが高いハンの島への内偵を依頼される。
 リーは父から妹がハンのボディガード、オハラに追い詰められ自害した事を聞き、ハンへの復讐を誓うのだった。

 ストーリーはこちら。
 人がカンフーをイメージする時、かなりの高確率で連想する「アチョー!」と言う怪鳥音の始祖であり、ヌンチャクをぶんぶん振り回すシーンの元祖的存在であり、「考えるな、感じるんだ」と言うセリフの元ネタであったりと、現在のアクション映画にも大きな影響を与えたとされる記念碑的作品。
 もちろん『ゲキレンジャー』も例外に洩れず多大な影響を受けています。
 主演のブルース・リーの名前を元ネタにした、獣拳創始者ブルーサ・イーのネーミングとそのセリフ。
 ジャンのゲキヌンチャクを振り回すアクションはそのまんま。
 電影版においては、そのストーリー。
 孤島を根城にする大悪党の独裁者が、格闘家を集めて野望を達成するための道具に使う……と言うのは、まさにそのもの。
燃えよドラゴン』では島内をスパイのごとく潜入するのはブルース・リー本人ですが、『電影版』ではそれが香港国際警察の秘密捜査官でもあったラオファンに変わっていましたね(ジャン本人も一緒になって潜入してましたが)。




 さて、ブルース・リーと言えば体を極限まで削り上げたストイックな求道者、と言うイメージが先行します。『燃えよドラゴン』作品内であっても、まだ未熟な弟子に対し、

 気合を入れろ 怒りではないぞ。
 考えずに感じるんだ。 

 と、アドバイスを与えています。あ、でもこの時点ですでにマクが否定されている(笑)。
 されどもこの作品では、ブルース・リーに非道とも言えるやんちゃぶりが目立つこと目立つ事!
 カマキリ同士を戦わせる賭けで同じ船に乗っていたローバーから実に嬉しそうに金を巻き上げる。
 正々堂々と戦おうとするバーソンズを罠にはめて(水夫に乱暴したコイツも悪いのですが)、そのまま水責め(本人曰く「戦わずに戦う芸術」)。
 島に入れば、渡された道着は着ない。妹の敵であるオハラを殺害。島の内部にひそかに潜入しては内部で恐ろしく派手に立ち回る、と、潜入捜査である事を忘れてるんじゃないかとさえ思える弾けっぷり。
 この人、ほんとに正義側なの!? と疑問符を大量発生させる暴力の持ち主なのでした。
 や、ブルース・リーの目的はあくまで、

  • 妹の敵討ち
  • 少林寺同門であるハンへの制裁

と言う、「正義」の二文字とは到底かけ離れた陰惨な動機なのですが。
 ここらへんは、やはりカンフー映画




 そんなブルース・リー同様に、悪役として絶大な存在感を発揮しているのがハン。
 島の中で武術家を大量に鍛え上げ、その裏で女を麻薬漬けにしては人身売買。不手際を犯した者はそれが例えどんな些細な事であっても公開処刑。怪しげな拷問道具に、地下へのエレベーターはギロチンをスイッチに偽装。猫を撫でてる(?)。アメリカへのシェア拡大のための手駒にするため、人質を取ってローバーを脅迫。その他多数。
 こんな悪役っぷりを発揮している悪党もそういません。
 しかもコイツ、大ボスなのにフツーに強い! 左腕が義手となっていて、様々なタイプに付け替え可能。鋭い鉄爪を左手に、ブルース・リーをさくさく切り裂いていくアクションシーンは、普通に武器を持っているのとはまた別種の、視聴者をひきつける力があります。
 まったくの余談ながら、スーパーゲキクローの元ネタがこれだったらちょっと嫌(笑)
 ラストの鏡の部屋でのアクションは、鏡の反射と屈折が作り出す映像美は思わず息を飲む傑作。鏡の中から外へ自在に移動しているかのように見えるハンとの攻防は手に汗握る。しかし、後ろを取ったならさっさと左手の爪で切り殺せばいいのに、と思うのもまた人情。お前はどこのスタンド使いだ!




 ブルース・リーとハンとの戦いも傑作ですが、脇役達ももちろん魅力的。
 借金まみれのローバーや、快活アフロ・ウィリアムズ。同時進行している(画面には映らないが)ハン子飼いの武術家集団と、地下で捉えられていた大量の人間同士の集団戦。ハン側が白の道着。捕まっていた側が黒い服と、画面の中ではっきり分かりやすいのもビジュアル的に明解で面白い。
 ただ、ハンのボディガード達だった女たちが、後半ほとんど活躍しなかった事だけは不満。後半、ほとんどその姿を見る事はできませんでしたが、一体どうなったのやら……。