『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』第二十二話「粛正の街は涙に濡れて…(後編)」

 アンバーに捕まった猫。彼を助けるために、黒は単身イブニング・プリム・ローズの拠点であるビルに侵入する。一方、猫、そしてノーベンバー11は、アンバーの口から南米天国門消失の真実と未来を聞かされる。




 三十分間、息詰めっぱなし! 物語としての『ダーカー』の力に終始圧倒されたまま放送が終わってしまいました……。脱帽です。




 今回は実に契約者らしい契約者(自称)猫の視点から始まるユニークなスタート。
 目が覚めると敵の本拠地。目の前には全裸で笑顔の伊達男、ノーベンバー11! 敵はみんな契約者。そんな状況下でくだした彼の合理的な判断とは!?
本物の猫のフリをするしかない」。
 いや、もう……。猫、頑張って(笑)!




 とは言え、この契約者の「合理的な判断」が今回の物語の肝だったわけです。
 E.P.Rに捕まった猫を見捨てるのが、契約者としてもっとも安全な「合理的な判断」だった。しかしそんな事はただの人間でも分かる事だった。
 しかしそれでも黒が、銀が、黄が猫を救出するためにビルに侵入したのは、それだけ猫がそれぞれにとって重要な仲間であったから。
 それは黒がアンバーに対して言った、

これ以上何を奪う気だ!?

と言う一言に集約されています。
 以前の天国門消失の際、失った妹、白。そしてその事件に関わっていたアンバー。
 最愛の家族。そして、もしかしたら恋愛感情を抱いていたかもしれない女性を失った事による喪失感はどれほどのものだったか。
 彼にとって、任務を通じて新たな絆と関係性を構築させたチームのメンバーは、今や妹やアンバーと同等の価値を持つ。
 大切な仲間を守る。誰も自分とアンバーの間に巻き込ませない。
 それが、黒にとっての「合理的な判断」。
 前編での、黒達のチームとしてのまとまりがそのまま、仲間としての純度の高さを表現していたのですね。
 そして、ノーベンバー11が未咲に、

「ここから先は敵も味方もない。あなたの直感だけを信じて行動して下さい」

と言う言葉だけ残し何も言わなかったのは、彼女を巻き込ませまいという彼なりの「合理的な判断」だった……。
 死の間際、契約対価を放棄したのは、彼が契約した、大きな何かから自由になった証だったのか。 




 そも、この作品のキーとなる地獄門は「個人の認識によって物理現象すら変化する異常領域」。よって自分の身の安全よりも、個々の契約者の嗜好、優先順位によってその「合理」が変化するのもむしろ当然の事なのでしょう。
 そしてそれは、普通の人間と何も変わらない。
 何があれば人間は人間でなくなるのか。そもそも、土台が人間であるならば、どんな特異な能力や精神性を手に入れたとしても人間以外のものになる事はできないのではないのか。 
 人間と非人間の定義。『ダーカー』の一つの大きなファクターですね。
 ノーベンバー11という魅力あふれるキャラクターの途中退場に涙した未咲の涙と、律儀に人に挨拶をするようになった姿がどこかノーベンバー11を思い出させるジュライだけが彼への餞。




 そして、黒達「組織」とアンバーらE.P.Rの目的がついに明らかに。
 組織の目的は、「世界すべての契約者を消し去る事」。
 一方のE.P.Rの目的は、「それに対抗し、契約者を守る事」。
 天国門消失は、組織の「計画」に反抗してアンバーが何らかの手を講じた末の結果だったらしい。しかも、天国門は厳密に言えば消失したのではなく、人類が触れる事のできない不可侵空間になってしまった事。
 対を為す地獄門を、人類の手に触れさせないように不可侵空間に隔離する事が、契約者を守るためのアンバーの計画なんでしょう。




 そのアンバーが必要してやまなかった黒。
 黒がアンバーと接触した瞬間、(おそらく)流星の欠片と呼応するように契約者、ノーマルの区別無く広がってくランセルノプト放射光!
 これこそが、アンバーが黒を欲した理由なんでしょう。
 とすると、黒の真の力とは全人類を契約者にする事か?。
 感情も希薄化していない。対価も支払っていない。「完全な」契約者であるとも言える黒と、天国門消失と同時に契約者となったアンバーはまさに契約者の世界の作り出す事ができるアダムとイブ。
 アンバーが林檎を食べているのも、知恵の実=林檎を食べたイブになぞらえた喩えと見る事も可能です。 




 しかし、黒はここまできてもやはり不透明。
 天国門消失と同時に契約者となったアンバーに呼応するように生まれた契約者達の中にいたのがBK201。しかし天国門消失に黒が関わっていたのだとすれば、黒はBK201ではない……?
 だとするならば、本物のBK201は、まさか白?
 黒が失った妹、白。彼女の声がしたのは、アンバーの持つ、流星の欠片から。
 この作品内での星は偽りの星であり、契約者を示すしるし。契約者が命を落とせば、星は流れる=流星となる。
 その流星の欠片であると言う事は、流星の欠片そのものが契約者の成れの果てのような物質か?  
 だとするならば、果たして白はすでに死亡している?




 また組織は、シュレーダー博士や流星の欠片の代替物質で契約者を消し去るために着々と計画を進行中。しかも、各国の警察、諜報機関もこの計画に賛同している様子……。 
 最終的に、黒の敵はアンバー。未咲の敵は警察上層部と、二人が敵を共有する事になるのが一番自然だと思うのですが。




 深読みしようとすればするほどどんどん勝手に疑問と言葉があふれてくる、魅力と底力溢れる凄い作品だと今更ながら思いました。
 次回からは前後編が終了し、待望の黒とアンバーの過去話!