ロバート・A・ハインライン『夏への扉』

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

 読書マラソン3・五十五冊目。
 以下感想……ってしなくてもいいか。有名だし(ヲイ)。
 この作品を購入した動機は、「有名だから」と言うのも一つですが、何より表紙の猫、ピートの後頭部が素敵だからでした(笑)。



 ただし、ピートは、どの猫でもそうなように、どうしても戸外に出たがって仕方が無い。彼はいつまでたっても、ドアというドアを試せば、必ずそのひとつは夏に通じるという確信を、棄てようとはしないのだ。
 そしてもちろん、ぼくはピートの肩を持つ。 

 



 主人公ダニイは技術者として、他人に命令される事無く生活したいと言う願いを持つ男だった。彼は持ち前の技術を活かし、次々と新たな発明品を作り出していく。
 しかし、ダニイは共同経営者に会社を放り出され、恋人にも裏切られると、十二月の空のように凍てついていた。そんな彼の心を、冷凍睡眠と言う言葉がとらえる。
 このまま冷凍睡眠し、自分を裏切った未来へと行くか。それとも彼らと立ち向かうか……。




 ストーリーは、恋人と友人に裏切られたダニイが、冷凍睡眠とタイムスリップを駆使して幸せになる、と言う基本的にはお約束なお話です。
 ストーリーの根幹に、「昨日より今日、今日より明日はいい未来になる」と言う清清しいほどの古典的な進歩史観があり、そういう視点で見るなら正直見るべきところはありません。
 すべての家事労働がロボットによって行われる、と言う、まさに「昔のSFのヴィジョン」。
 しかしそういう進歩史観を、「夏への扉」と言う言葉に置き換えたハインラインのセンスは賞賛に値します。
 繰り返されるトライ&エラーの果てに、きっと幸せになれる未来がまっている、と考えれば、そういう鼻につく進歩史観も、自分の中でおおいに許容されうるハッピーエンドになります。
 



 また同時に、そう信じられる? と言う読者側へのメッセージ性も感じました。
 今日は良くならない、だから明日も良くならないと思い込んで扉を開けないでいれば、いつまでたっても凍てつく冬の季節は終わらない。
 目につくドアを片端からあけていれば、その中の一つはきっと夏へと通じている。少なくとも、ダニイの相棒であり、友人である猫のピートは信じている。
 さぁ、彼の肩を持つ事が出来ますか? 




 主人公の独立心を重んじる性格を象徴させるように独立心が強く、人間の言う事を容易に聞かない気まぐれな猫と言う生き物を相棒に設定した事で、この「夏への扉」を信じる個人の気質が強調されています。
 SFに猫、と言う一つの王道的な組み合わせが生み出した一つの傑作です。