吉村夜『サイレント・ラヴァーズ 悪魔になった少年』

 読書マラソン3・四十五冊目。
 やっと吉村夜先生の新作読めたー!
 今回の新シリーズはイラストに結賀さとる、メカデザインに小笠原智史を迎えた豪華シリーズ!
 今シリーズも吉村夜イズム全開の男女のドラマが展開されています。
 以下激しくネタバレ感想。
 核戦争とその後の氷河期により衰退した人類は二つの勢力に分かれて人型兵器VGを使用し食料プラントを巡る戦争を延々と続けていた。
 徴兵された少女ヒバナは徴兵期間の二年を何とか乗り切り、恋人の待つ故郷へと帰る事だけを希望に戦っていた。
 しかし彼女の願いが叶う事は無かった。
 彼女の部隊に配属された新たなVG・TYPE-Dは人間の魂を電子化しインストールするシステムを備え、そこにインストールされた人間こそが彼女の恋人、セツナだったからだ。



 どうしようもなく理不尽な闇の世界。分かたれた恋人達。それでも、そんな世界に一矢報いてやる! と死力を振り絞って戦うその姿こそがまさしく吉村夜イズム!
 自らがTYPE-Dアンタレスである事を決して言い出せないセツナ。そんな彼の正体を知らず、彼のために優しさをしめすヒバナの姿が切ない……!
 また、タイトルの「ラヴァーズ」と複数形であるように、悲しみの運命に引き裂かれるのはヒバナとセツナだけではない。
 敵軍の将校二人、シデンとカスミ。
 結婚を誓い合った二人の一人カスミは、しかしアンタレスの機能の一つソウル・ドレインによって魂を電子化されアンタレスの内部に!
 シデンから見ればカスミを殺した不倶戴天の敵であるアンタレス
 しかしその中にこそ愛しい恋人の魂は電子化されインストールされている、この理不尽さ。
 しかもシステムには不可逆であり、一度インストールされてしまえば二度と下の体に戻る事は無いと言う残酷さ。



 一方、荒廃した世界にあって、アンタレスの内部の仮想空間には黄金時代の文明の情報が。
 アンタレスは本来戦闘用のものではなく、人類を救う可能性を秘めたエデン計画のための重要なファクター。しかしセツナが正規の方法でインストールされなかったため、セツナに連絡が取れず未だそれを伝える事が出来ない状況。
 その内部の恋人達も、特に男は互いの存在を支えにしています。



 残酷な世界で戦う恋人達の熱いドラマ。吉村夜先生が『黄金の刻』で確立されたチームプレイも楽しめる、新シリーズでした。アンタレス以外のTYPE-Dも四機ほど確認されており、今後の展開が気になります。