朱川湊人『ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント』第5話「幸福の王子(後編)」(『ジャーロ』2009.SUMMER)

ストーリー

 ギガンティアと名付けられた怪獣は、ユーゼアルと言う伝説の生物であった。宇宙船ガーベラの乗員が生存している可能性を知り、GUYSはユーゼアルとのコンタクトを試みるのであった。

第一感想

『アンデレスホリゾント』完結!
 スタートしたのが二〇〇七年の春だから、足かけ二年か……。長かったような、短かったような。
 なにはともあれ以下感想。

カナタとビオ

怪獣使いの遺産』で少なからぬ因縁を持つ関係となったカナタとメイツ星人ビオ。
 ビオの事が今一つ信用できないトリヤマ補佐官に対し、カナタはビオの事をこう評する。

  • 「いい意味でも悪い意味でも誠実である」
  • 「こちらが向こうを信頼する限り、彼はその信頼に背かない」

 本編よりも、やはり的確にビオの事が評されているのが印象に残るカナタの認識だった。逆に言えば、最初は宇宙人嫌いだったカナタが自分の方から宇宙人を信用している、と言う事で、カナタの成長がここに表れている。

ガンブレイバー

 ユーゼアルの体を調べるGUYSクルー。体内に宇宙船ガーベラを収納していると考えられるが、ユーゼアルの体表面は温度が高く生身で登る事はできそうにない。
 そこで登場するのがガンブレイバー! マニアックな試作バイクの機能を使い、カナタとミライの二人のコンビでユーゼアルを登る事になる。
 いつもそうだが、こういうメカ関連の描写もしっかり忘れていないのは嬉しい限り。

生きていたホリエサエコ

 ユーゼアルの体内の宇宙船ガーベラ。その船内のコールドスリープ装置の中で、果たしてホリエサエコは生きていた。
 しかし、生きていたのは彼女一人で、カナタの父達他の搭乗員は生きてはいなかった。カナタの父達は、無酸素状態の惑星に不時着。その後、一番若い彼女一人に生存の可能性を託し、コールドスリープさせたのだ。
 地球の人々や、カナタ、妻にメッセージを残して……。そして、その無酸素状態の惑星こそユーゼアルの住んでいた惑星であり、そこからユーゼアルがガーベラを地球まで送って来た、と言う流れだった。

幸福の王子

 ミライ達ウルトラマン。カナタの父。そしてユーゼアル。
 地球と言うちっぽけな惑星のため、我が身を削り戦うウルトラマン。「遠く、彼方を目指せ」と言い残してホリエサエコを生かしたカナタの父。そして、実は酸素に触れると細胞が崩壊してしまう生物であったにも関わらず、地球までガーベラを送り届けたユーゼアル。
 彼らはカナタに、まるで幸福の王子のように、全てを差し出した地上で最も美しい魂の持主であったと評された。
 宇宙人を嫌い、憎んでさえいたカナタがこれまでの研修の中でその偏見から解き放たれ、悪意と闘争に満ちた宇宙に会ってもそれほど美しい魂の持主がいる事を知った事は、大きな意味があるのだろう。
 カナタには、母と言う重たい枷が存在する。しかしカナタの父のビデオメッセージを見せた事で、彼女には変化があったと言う。それが回復に向かうものなのか、悪化してしまったのかは明言されていない(「いい知らせ」と描写されてはいるが)。
 ただそれがどんな変化であっても、今のカナタならば受け止める事が可能であるだろう。これまでの経験の中で、確実にカナタも「幸福の王子」の一人になっているのだから。
 そんなカナタの成長を記した、『アンデレスホリゾント』も一冊にまとまって出版されるようで楽しみ!