椎葉周『アンジェリック・ノワール(2) パラダイス・リゲインド』

 読書マラソン3・五十一冊目。
 文庫未収録短編『アルティメット・ファクター 境界線のファミリー・ビジネス』電子書籍化、おめでとうございますっ!
 一『究極因子』ファンとして、とても嬉しいです!




 そんなわけで、今回は待望の『アンジェリック・ノワール』第二巻の感想をば。
 そういえば、前回まで主人公達の事を漢字で書いていましたが、今回からカタカナで表記する事にしました。作中でもそうなっているし、その方が簡単だしねー(ヲイ)。
 以下激しいネタバレ感想。
 ヤヨイに天使されたユースケ達。しかしユースケ達は、敵天使たるマリコが率いるグループ十四Kの天使達に狙われていた。そこでユースケ達は集まって、トレーニングを行う事になったが……。




 パラダイス・リゲインド=楽園の再生のタイトルが示す通り、今回の主役は主人公であるユースケではなく、前作でいじめられ不登校になった挙句、RMT詐欺の走狗として使われ、卑しき天使になってしまったヤマネの再生がメインストリームとなって展開します。




 これまでの抑圧と情緒不安定から、実は天使としてはユースケ達のメンバーの中で最も高い同調率を誇るヤマネ。彼のヘイロー・フェノメノンも、深層心理の抑圧とキレた時の落差を示すような恒星爆弾。 
 いちいちキレないと戦えない。
 会う他人全員に敬語を使って自己防衛。
 そんなうじうじしつつも決して他人事ではない彼も、ギャング天使達にやられたユースケを助けるために必死になったり、マスターやシュンとのトレーニングと、その結果得られた「喧嘩での勝利」を経験する事で、少しずつ、余裕が出てきました。
 そんな彼が、ある意味一番かわいくて仕方ない。




 また、今回はユースケやヤマネ。そして新キャラのシズエとの恋愛もストーリーの重要なファクターです。
男に自信をつけさせるにはいい女を連れて歩かせればいいんだ
と簡単に言ってしまうヤヨイに惚れちゃったヤマネ。
 ヤヨイに紹介されたシズネに一目ぼれしてしまったユースケ。
 恋に悩む青少年の青い軌跡も注目すべきポイントです。まぁ、マスターのアレはいつもの事ですが(笑)。




 今回新登場の剣道少女のシズネですが、彼女もロシア人とのハーフ、そしてあのギンさんの娘(!)と言う外見・内面のコンプレックスにあえぐ少女でした。
 意外と中身は過激で、天使になってしまった彼女。ユースケともお父さん(笑)との強烈な面通しを経て見事お付き合いしている二人。
 椎葉周作品で、こういう恋愛感情が前面に出る、と言うか恋愛問題を抱えるキャラクターが登場するのは珍しいので、今後が楽しみです。




 キャラクター的に言うと、ギンさんもやはり天使だと言う事が判明しました。しかも天使がメタトロンって……! めちゃくちゃ高位じゃないですか!
 小指のギャグやカラオケと、魅力あふるるギンさんなのでした。




 さて、今回の白眉は、何と言ってもトレーニングシーン!
 本能に逆らって自分の体を苛め抜いて鍛え抜いていくトレーニング。本当はそんな事しなくたって生きていける。特にあらゆる自由が買えるこんな時代なら、なおの事。
 しかし、そういうトレーニングを通じてでしか変えられない自分がいる。拭い去れない劣等感が在る。
 



 強く、格好良くなりたい。

 


 誰もが一度は思ってそれでも挫折していくこんな簡単な願いを、どこまでも現実的に自らの体を通じて手に入れていく。
 椎葉周の最大の魅力、そんな生々しい心と肉のドラマが濃厚に凝縮された一冊でした。