『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』第十四話「銀色の夜、心は水面に揺れることなく…(後編)」

 久良沢探偵事務所の二人、そしてエーリスと共に電車で逃避行を続ける銀。それをイツァークとモニカ、そして黒達が追う。



 銀が情感たっぷりと幻想的に描かれた珠玉のエピソードでした。



 前回の感想では「心と感情の揺れを描く」と思っていましたが、むしろ「感情が動く理由」に焦点が当てられたストーリー運びだったように感じます。



 銀=キルシーは父を飛行機事故で失い、残った母はエーリスと新たな関係を築こうとしている。それがショックで家から飛び出した彼女の身代わりになり、母は死亡した。
 しかし契約者としてドールになったキルシー=銀は、今では「悲しい」とすら思えなくなっていた。彼女は心を失くしても、すべてを覚えていた。
「悲しいと思えない事が悲しい」。
 だから、自分から逃げ出した。そうやって自分からアクションを起こせば、感情は、心は動くと思ったから。
 廃校舎の中のピアノを弾きながら、さながら巡礼の如く過去はフラッシュバックしていく。果たして、その感情は動いた。それはしかし、他ならぬ追っ手の手によって。



 銀を追う二人。イツァークとモニカ。
 モニカはかつて歌い手であり、娘がいた。しかし自分が吸っていたタバコを食べてしまい、娘は死んでしまった。対価は「異物を食べて嘔吐する事」。吐けるなら何でもいい。しかし、娘を殺したタバコをあえて選択した彼女の選択を考えると、その意味は重い。
 対してイツァークは、対価のせいかどこか詩的で、モニカの告白を聞く神父のような立ち位置。
 今回、彼が観測霊を解放し、その光が月明かりに似て、銀とモニカの心を揺さぶる原因になります。
 


 月食は永遠の贖罪。今回のエピソードは、ある意味で母殺しと子殺しの罪を背負った二人の女達の贖罪を描いたものでもありました。
 銀は、キルシーでは無く黒の「仲間」の銀として「自分で決断」し、組織の一員として働く事を。モニカは、その死を持って。  
 自分で決断した銀が、ヒロインとしても黒の仲間としても大きく株を上げた今回のエピソード。自分で唇の端を持ち上げるその行動が、彼女の偽らざる彼女の本音だったのですね。



 夜の世界に浮かぶ、本物の「光」を失った世界。その夜の世界で暗躍する契約者達照らすものは無く、星の動きは生死を表す。
 そう見ると、『ダーカー』自体、生臭い現実をひどく詩的なフィルターをかけて描いている事が分かります。



 メインは銀とモニカでしたが、その他のキャラクターの動きも非常に良かった。
 黒があくまで銀を「仲間」として認識し、最後まで彼女を助けようとしている事。
 契約者やドールに対して嫌悪していた黄が、銀の涙に半ば動揺し引き金を引けず、組織の手から銀を守った事。
 久良沢の「人間を人形みたいに扱っていいはずがない!」と言うしごくまっとうで重要な事を叫び。
 それぞれがそれぞれの感情に従っての行動と発言の結果、銀がそれまで通り煙草屋で看板娘をやっている事に結びついたのが感慨深い。
 もちろん、キコの「みんな期待してたのにー!」も(笑)。
 はい、ちょっとだけ期待してましたwwwww



 黒対モニカのアクションも見ごたえがありました。モニカの物体の振動数を上げて物体を破壊すると言う、相手と直接・間接的に触れなければ効果が無い黒の能力とは相性が悪い相手でしたが、モニカの能力で止まられた心臓を電撃で再び動かすと言う荒業!
 電撃と言えばいわゆるピカチュウみたいなものを思い出しがちですが、それに囚われない能力の活用の仕方に舌を巻きます。



『ツキアカリ』のEDとの親和性も非常に高く、最後の最後まで気持ちのいい余韻を満喫できた一話でした。



 次回からはいよいよ後半戦開始。
 星見様。MI6の再登場。そして、アンバーの本格的な参戦!