久正人『ジャバウォッキー(3)』
- 作者: 久正人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/08/23
- メディア: コミック
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今回は第二巻の続きである「乳飲み子の毛沢東暗殺計画と戦う」『赤い星』。
そして「旧約聖書に盗作疑惑!?」の『アダムの肋骨』が収録されています。
- 「赤い星」
自分の子どもの進化を止めて暗殺に便利な殺人鳥にしたてるミクロラプトルの女王。
彼女のバックボーンには、漢民族に肩入れしていたミクロラプトル(応龍)が清朝政府に肩入れしたサウロロフス(角龍)に権力闘争で敗北したと言う権力争いがあり、暗殺者として使われる身に甘んじながら、女王の座にまた返り咲こうとチャンスを狙っています。
爬虫類が進化した恐竜は最終的に鳥となって翼を得た。
その事に強い誇りを持つ彼女は、自分の子どもさえ暗殺の道具と見なす。
しかし、一度は芽生えた母としての感情を自ら握り潰した結果、自らの子ども達に報復されるという皮肉な最後を遂げる。
将来
その子が「大躍進」と唱えた時に五〇〇〇万人
大革命と唱えた時に二〇〇〇万人
合わせて七〇〇〇万人の人間が死ぬそうだよ
(中略)
お前はどうなんだ小娘
その子の将来は死屍累々だぞ
未来を知っているからこそ毛沢東が生きている危険性が分かる。
しかし無力な乳飲み子である彼をその手に抱いているからこそ、彼の未来を守りたい。
そんな思いと、将来の予言の危険とを秤にかけて迷うリリーを励ますタバサの最後の言葉がキザったらしいけど、彼らしくて良し。
- 「アダムの肋骨」
旧約聖書において、アダムの肋骨からイブが作られたとされる。
しかしそれが、恐竜達の伝説の「パクリ」であり、なおかつその証拠とされる巨大な(恐竜サイズの)肋骨をシェリーマンがトロヤ遺跡で発見したら? と言う非常に面白いストーリー。
しかもその伝説自体、恐竜たちに忘れられたローカルな伝説。
けれども今回のメインは、アダムの肋骨そのものではなく「男と女」。
アダムとイブ。
パリスとヘレナ。
そしてタバサとリリー。
パリスが実は恐竜の軍団をまとめる存在であり、人間でありながらパリスと本気で恋をしてしまい、その脅威を恐れて起こった戦争でトロヤ滅亡。
そんな事にならないように、「幸せにならないとな」なんて言ってたタバサの目の前に、右腕と妹を奪った仇敵ジャンゴが登場してリリーを放ってマジギレ状態。
アダムの肋骨が反人類の象徴として盗まれ、戦闘不可能の状態であってもジャンゴに向かっていくタバサをおさえるリリーの行動に泣ける。
タバサとリリー、二人の愛の象徴的なラストシューティングには、もう言葉はいらない感動。
この「アダムの肋骨」で魅力を放つのは、人を喰った態度で遺物を売って金に執着するシュリーマン。一見守銭奴なれど、しかし独特の憎めない魅力があります。
命日の日付入りのサインを書いた瞬間すらそんな態度は変わらない、最後まで愛すべきキャラクターでした。
非常に気になるところで終わっていますが、実はこれで「アダムの肋骨」編は終わり。続きはWEBで公開中の「切り裂きジャック」編に続きます。