柳広司『百万のマルコ』

百万のマルコ (創元推理文庫)

百万のマルコ (創元推理文庫)

 読書マラソン3・三十五冊目。
 自分が大学で専攻している分野と若干被るので購入。
 以下感想。
 ジェノヴァの牢獄に戦争捕虜として捕らえられたルスティケロ達。
 彼らが解放される方法はただ二つ。捕虜交換か、多額の身代金を払うかだった。
 しかし彼らは物語作家、貴族や商人の次男・三男であり捕虜交換されるほどの重要人物でもなければそんな金を払えるわけもなかった。
 牢獄の中で退屈しきった彼らだったが、そこに現れたマルコ・ポーロが語る物語とその謎について推理しているうちに、次第に彼らはそんな退屈から解放されていく。



 この話の元ネタになった『東方見聞録』はとかくキリスト教徒的バイアスがかかった作品であり、そもそもマルコ・ポーロ自身、ジパング=日本には行った事が無いのにさも言った事のあるように語っている、ある意味「小説」そのものの側面があります。
 しかし『百万のマルコ』はそれを巧く調理し、さらにミステリー仕立てにして一つエンターテインメントの次元を上げた一冊です。



 ヨーロッパ的な視点から見たアジアへの偏見を、巧くミステリーと組み合わせる事によって、マルコ・ポーロが語る物語の謎自体がチープにならず、驚きと納得を持って受け止める事のできる回答に化学変化を起こしています。



 元ネタである『東方見聞録』を知らなくても、むしろ知らない方がより楽しめる、そんな作品でした。