『HERO 英雄』

英雄 ~HERO~ スペシャルエディション [DVD]

英雄 ~HERO~ スペシャルエディション [DVD]

獣拳戦隊ゲキレンジャー』からアクション映画に触れてみよう企画、第十七弾。
 今回は『HERO 英雄』。

 中国は秦の時代。秦王(後の始皇帝)は常に刺客に狙われ命の危機に晒されていた。宮殿内部には何も物は置かず虚ろであり、また自分から百歩以内の距離には誰も近づけさせる事が無かった。
 ある時、秦王を悩ませる三人の刺客を倒した青年・ウーミンがその証拠である刺客達の武器を持って秦王の宮殿へとやって来る。秦王の前でウーミンは刺客達を倒した経緯を語り始める。

 ストーリーはこちら。
 チャン・イーモウ監督作品として、日本でも有名な作品です。しかし、自分の学校で中国語を担当している先生は、
チャン・イーモウはいつからあんな世間に媚を売るような作品を作るようになったのか……」
と嘆き悲しんでいましたがw
『ゲキレン』的には、主人公のウーミンをバット・リーの元ネタとなったジェット・リーが。三人の刺客の内、一番最初に戦う事になる刺客・チャンコンをゴリー・イェンの元ネタになったドニー・イェンが演じているのがポイント。
 日本語吹き替えの声優さんは池田秀一氏、大友龍三郎氏が演じているわけではありませんが、ウーミンの吹き替え担当声優さんは「あの」森田順平氏。そう、『轟轟戦隊ボウケンジャー』でリュウオーン陛下のお声と人間態を演じられた人! これは一リュウオーン陛下ファンとしては見逃せませんねっ(笑)!
 また主要キャラ以外のキャラクターの吹き替えをマスター・シャーフー役の永井一郎氏が。そしてキンタロス役の寺杣昌紀氏が担当しています。特撮ファンならニヤリと来るところですが、本当ならこれ、逆なんでしょうね……(苦笑)。
 役者さんもトニー・レオンマギー・チャンチャン・ツィイー、チェン・タオミンなど、日中で名前が知られる豪華なキャストがそろい踏み。
 まったくの余談ながらトニー・「レオン」にひっかけたライオン師匠が登場すると、思っていた時期がありました……(苦笑)。
 後、「チャウ」・シンチーでチャウチャウ(犬)師匠とか……。




 そんな事はさておいて。




 この作品の特徴は、「美しい」と評価して何ら差し支えない映像でしょう。
 アクションはワイヤーアクション+CGの多用で、そのあまりにワイヤー的なアクションに時には食傷気味に映る部分も多々ありますが、それすら美しさの一部となって映像を引き立て、中国の雄大な自然(この際現実とのギャップには目をつぶる方向で)を舞台に名だたるアクションスターのアクションと演出が冴え渡ってます。
 どこまでも続く砂漠、雨中の碁会所、紅葉、湖、そして秦王の虚ろな宮殿と、風景の美しさと砂、水滴、紅葉、水などがアクションによって巻き上げられ、弾かれする映像が素晴らしい。
 秦軍が放つ数十万の矢を人間が次々と弾き返していく、また湖上での剣戟など、その荒唐無稽さに恥じないビジュアル。そして、個人的にはアクション時に服のすそがばさばさ翻るのが好きなのでそれも高ポイント。




 この作品は基本的に、主人公のウーミンと秦王との会話がメインになっており、アクションはその回想シーンでのものになります。
 最初にばらしてしまうと、ウーミンが三人の刺客を倒したと言うのは秦王を暗殺するためのウーミンの狂言。それはウーミンが十年の剣術の修行で身につけた「十歩必殺剣」(十歩以内に入ったものを確実に仕留める剣)で秦王を殺害するために。
 他人と話す時も百歩以内には近づけさせない秦王ですが、この三人の刺客を倒した人間は褒美や土地と共に、十歩以内での謁見を許されるからです。
 その会話の中で展開されるのは、四つの物語。
 一つは、ウーミンが秦王に話す刺客との戦いの物語。
 一つは、虚言を見抜いた秦王が推理した物語。
 一つは、事の真実の物語。
 一つは、秦王が過去に体験した物語。
 それぞれ、赤、青、白、緑の服で色分けされ、実は分かりやすさと同時にその時のキャラクターの心情を反映させたものになってます。
 これらの物語の中で、「秦国のために」と言う偽りの動機から秦王に家族を殺された「復讐のため」と言うウーミンの動機が明らかになっていきます。
 しかし彼はかつて秦王の宮殿に乗り込み、命を奪う直前までいった刺客・ツァンジェンから、「秦王は天下を治め、戦乱を終わらせる人間」だと諭され、直前で復讐を諦め、弓弩に射殺される道を選びます。
 ここで秦王が、「部下も理解していない自分を理解しているのは一番の刺客だった」事を秦王は初めて知ります。
 比類無き軍勢と権力を誇りながらも、しかし宮殿は虚ろ。常に暗殺・刺客を警戒して枕を高くして眠る事もできなかった孤独な王。しかし彼に近づいてくれるのは、彼を殺しに来る刺客だけ。その上、一番の理解者もそんな刺客の一人ツァンジェンであり、ウーミンが来なければ一生知る事は無かったであろう事実。
 ツァンジェンが書いた「剣」と言う書から、必要なのは剣を捨て、平和に世を治める事だと知った秦王。戦乱の世を治める為殺されなかった彼は、しかし法を破った者に対する制裁を示すため、理解者である刺客・ウーミンを殺さなければならなかった……。
 映像の華美と対照的に皮肉で悲しいラストが印象に残る一作でした。